2013年3月6日水曜日
復刻版!【今月の歌・語り】第4回目「早春賦」 2000年3月掲載

今月の歌・語り
早春賦
ラウム歌集525 37ページ

作詞  吉丸 一昌
作曲  中田 章
 ~春は名のみの 風の寒さや
谷の鶯 歌は思えど~


記念切手「にほんのうた」シリーズにもとりあげられている早春賦。暦の上では春でも、まだまだ寒さが残るこの季節には、「春は名のみの」のフレーズがまさに身にしみる歌です。
作者の吉丸―昌は明治6年、大分臼杵生まれ。下級武士の家に育ち、苦学して旧制五高、帝大に学び、東京音楽学校教授となって音楽の道に進みました。着任早々の仕事が、文部省唱歌の編集委員だったのですが、その内容に飽き足らず、大正1年から3年にかけて、「新作唱歌」全10巻を編さんし、出版しました。これは、自らが作詞した75編に、当時の新進作家の曲を加えたもので、その第3巻に収録されたのがこの「早春賦」です。
貧しい家に生まれ、進学費用ねん出のため、幼い弟たちが養子にだされるなどのつらい思いをした吉丸。こうしたつらい思い出からか、帝大在学中、「修養塾」を開き、地方出身の学生の衣食住から勉学、就職にわたるまでの世話をしたり、東京府立三中の教諭時代には私財をなげうって夜間学校を創設したり、自宅はいつも苦学生に開放され、自らは貧乏暮らしに甘んじていたなど、若い苦学生のために尽力していたようです。
 さて、この歌は吉丸が一時住んでいた長野県安曇野が舞台というのが定説です。葦が「角ぐむ」とは、草木の新芽が角のように出始めること。厳しい冬を越し、芽をふく葦の姿に、吉丸は前述のような若い苦学生たちの姿を重ね合わせ、「苦難にまけるな」という祈りをこめたといわれています。春はまだ「名のみ」と歌いながら、それは決して絶望ではなく、いつか必ずやってくる希望、そして春に向けて旅立つ勇気を歌った「人生の応援歌」なのですね。
安曇野では、毎年4月29日に早春賦祭が行われ、この歌が合唱されるそうです。



 
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