2013年6月2日日曜日
復興版「今月の歌」6月 『みかんの花咲く丘』

今月の歌
みかんの花咲く丘
ラウム歌集525 41ページ記載
 
加藤省吾 作詞
海沼 実   作曲
 
みかんの花が 咲いている
思い出の道 丘の道~

8分の6拍子のゆったりとして耳になじみやすいメロディが、初夏ののどかな光景によく似合います。昭和25年、NHKの番組で放送された直後に反響をよび、レコード化されて大ヒットとなったこの曲には、面白いエピソードがあります。
 「運命というのはわからないものです。あの日、あの曲が生まれたのは偶然でしたから」と作詞の加藤省吾は当時を振り返ったそうです。昭和25年8月25日、NHKラジオ放送で、当時としては画期的な二元放送が放送されることになりました。東京内幸町の本局と静岡県伊東の小学校を結ぶ、小学生のための劇、歌の特別番組です。静岡側の担当をしていた海沼のもとに、その番組の中で歌われる新しい歌の作曲依頼がとびこんできたのが、なんと放送前日の昼頃。しかもこの後、伊東に出発しなければならず、あと2時間ほどしか時間がないという状態でした。
 普通なら、完全に無理な注文なのですが、それを可能にしてしまった運命の偶然は、ちようどこの日、「ミュージックライフ」編集長であつた加藤省吾が、取材で海沼宅を訪問していたことから始まりました。加藤は静岡県吉原市出身でもあり、「かわいい魚屋さん」などを手がけた人気作詞家でもあったのです。海沼が「ちようどよかった」とその場で、作詞を依頼したのも自然の流れだったのでしょう。はじめは当惑気味だつた加藤も、「一回放送するだけだから」と説き伏せられ、海沼の「伊東にふさわしいのはみかんだから、みかんの花をテーマにした歌にしよう」という注文をもとにたった20分で詞を書き上げるという離れ技をやってのけました。
 その原稿用紙をつかんだ海沼は、そのまま家を飛び出して、新橋発伊東行きの列車にのりこみ、その列車の中で曲を作ってしまいました。「大磯を過ぎて海が見えてきたあたりで、前奏のメロディが浮かんだ」のだそうです。ガターンガターンというレールの音が、あの8分の6拍子のリズムのヒントになったのだという人もいます。
 かくして、非常に短い時間で作られたこの曲が、人々に長い間、愛唱される名曲になったというわけですから、2人の底力と、センスの良さを感じずにはいられません。
 ところで、この歌詞をいま一度読み直してみると、1、2番と、3番の印象が違うことにお気づきになりませんか?前者は淡々と情景を描写しているのに対して、後者はとても情緒的で、ふるさとと母への慕情がにじみでているような歌詞です。加藤は、1、2番は、「伊東の丘にたって、海に島を浮かべ、船には黒い煙をふかせてほしい」という海沼の注文通りに書き、3番には自分なりに膨らませたイメージを織り込んだのだそうです。加藤自身、母親とは早くに離別しており、ふるさとの情景を思い出すにつれて、幸せだった幼い頃の母のイメージが自然とうかんできたのでしよう。この歌は、3番の歌詞があるのでいい、と評する人も多いそうです。意外と2番や3番は知らなかったという人も多いと思いますが、この歌のほんとうの雰囲気を味わうためにも、ぜひフルコーラスで歌ってみたいものですね。



 
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