今月の歌
牧場の朝
ラウム歌集525 24ページ
杉村楚人冠 作詞
船橋 栄吉 作曲
ただいちめんに たちこめた~
牧場の朝の 霧の海~
牧場におとずれる朝のさわやかな様子、聴く人にまで高原のすがすがしさを伝えるような歌です。歌のモデルとなったのは福島県鏡石町の岩瀬牧場といわれています。岩瀬牧場は、日本初の欧州式牧場として有名なところ。明治初期、明治天皇の東北巡業の際に、鏡石町と、近隣の矢吹、須賀川におよぶ広大な原野の開墾を指示されたのがその始まりだそうです。もとは宮内省直轄で、明治40年、オランダからオランダホルスタイン13頭が輸入されました。そのときに友好のEFとして贈られたのが、歌にでてくる「鐘」です。
さて、この歌も、作者の名が伏せられていた当時の文部省唱歌の例にもれず、つい最近まで「作者不明」とされてきました。チェコスロバキアの民謡ではないかという説もあったほどです。作詞朝口杉村楚人冠の根拠を発見したのが、地元鏡石町の医師であり、郷土研究家である最上寛氏。朝日新聞の記者であった楚人冠が、河合英忠画伯とともに、岩瀬牧場を取材したことがあるそうです。最上氏は、地元の古新聞にこの取材のとkの訪間記を発見、そこには歌詞のもととなる言葉が記されていました。
楚人冠作詞の説に異を唱えていた人もいました。他でもない息子の武氏だそうです。何でも楚人冠という人は、文章の中に「かんかん」とか「りんりん」といつた擬音語は絶対に用いなかったというのがその理由でありました。しかし現在では、やはり楚人冠作詞ということで落ち着いているようです。
杉村楚人冠は、明治5年、和歌山県生まれ。元朝日新聞社顧間で、同社の調査部長時代には、石川啄木を朝日歌壇選者に推薦したり、あのアサヒグラフ創刊者としても有名です。作曲の船橋栄吉は、明治22年、兵庫県明石市うまれ。東京音楽学校教授で、日本で、ベートーヴェンの第9を歌った最初の人としても知られています。