2016年3月26日土曜日
「歌のこころ」 に寄せて   名古屋市 中村紘子

 本書は、「童謡から『君が代』に至る60曲の背景を綴る音楽随筆集」と紹介されているとおり、あとがきまで含めて全体で422ページという大作です。初めて手にしたとき、少し重量感があって「これは手ごわいかな」と一瞬思いましたが、杞憂に終わりました。日本の唱歌に対する謎解きと発見にあふれた、素敵な一冊です。

 収められた1曲1編、計60編のコラムは、四季、年中行事、わらべうた、家族、青春、恋愛、反戦など、多岐にわたるテーマ別にまとめられています。歌詞の意味や後年の変化、歌が作られた経緯や当時の社会状況、作詞家・作曲家の生い立ちや歌に込めた思いなど、多くの参考資料に基づいた幅広い内容です。著者の執筆に費やした努力と熱意には、ただただ敬服するばかりです。

初めから読み進めていくと、一つ一つの歌が束ねられて、大河のようになってゆく感覚を味わえます。自分が好きな歌、知っている歌から読んでいく手もあります。季節に合わせて、また人生の様々な局面で、その時の気持ちに最も寄り添ってくれる歌のページを繰るのも良いのではないでしょうか。

いろいろな読み方ができるのは、歌がいかに人間の多彩な心を汲み取り、表現してきたかを物語っています。まさに「歌のこころ」です。本書は、随筆集ゆえに著者の個人的な思いが所々に述べられていますが、全編を通して、歌を愛する気持ちで貫かれています。「歌が伝えたいこと」とともに、著者が伝えたいことも、きっと多くの人に届くでしょう。



                                           2016年3月 中村 紘子(元読売新聞記者)



 
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